磯部温泉のある安中市を通る、信越本線という鉄道路線があります。軽井沢に隣接する「横川」というエリアから高崎駅をつなぎ、地域住民によって日常的に利用されている路線です。
横川駅に隣接するテーマパーク「碓氷峠鉄道文化むら」では現在「鬼滅の刃」コラボのイベント『鬼滅の刃×SLぐんま~無限列車大作戦~』が開催されており、限定グッズや限定フードを求める方で賑わいを見せています。
何を隠そう、この記事を書いている筆者も鬼滅の刃が大好きで、すでに原作を読破しております。いちばん好きなキャラクターは善逸くんのオトモの雀ちゃんです。現在劇場版も公開されている無限列車編も本当に言葉に表せないほど凄まじいドラマがありましたね。煉獄さんへの愛が止まりません。
が!!!実は、この「碓氷峠鉄道文化むら」の原点である「信越本線」にもなかなかのドラマがあったことをご存知でしょうか。コラボイベントが人気すぎて陰に隠れがちですが、明治に始まり、平成に幕を閉じた鉄道と人間の大きなストーリーがあるんです。
鬼滅の刃をきっかけに横川の地を訪れたみなさんも、どうかもう少しだけお付き合いいただけませんでしょうか。(列に並んでお待ちいただいている間の待ち時間にもおすすめのボリュームとなっております)
信越本線の歴史
信越本線のうち最初に開業されたのは高崎-横川間で、なんと1885年。今年で135周年です。30年を1世代とすれば4.5世代、ひいひいじいちゃんよりさらに昔の時代からスタートしています。
では、そもそも信越本線とはどんな路線なのか。
信越本線(しんえつほんせん)は、群馬県高崎市の高崎駅から群馬県安中市の横川駅まで、長野県長野市の篠ノ井駅から同市長野駅まで、および新潟県上越市の直江津駅から新潟県新潟市中央区の新潟駅までの区間を結ぶ東日本旅客鉄道(JR東日本)の鉄道路線(幹線)である。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BF%A1%E8%B6%8A%E6%9C%AC%E7%B7%9A
つまり、実は3区間に分断されている路線なのです。もともとは高崎駅から新潟駅までをつなぐものでしたが、1997年に北陸新幹線開通の流れで安中市の横川駅から軽井沢駅間が廃止、その後2015年に長野駅から直江津駅間も廃止に。
その中で今回着目したいのは、横川-軽井沢間の部分。
横川駅と軽井沢駅をつないでいた線路の長さは11.2km程度なのですが、標高差が552.5mあり、いわゆる急勾配。列車が登るのにパワーが要る区間でした。
そこで採用されたのが「アプト式」。線路の中央にノコギリ型のラックレールを設置、機関車側には歯車をつけて噛み合わせて登ります。スイスの機械技師であるローマン・アプトさんが考えたのでこの名称が付きました。
しかし時代が進み、物資や乗客をたくさん運ぶ必要が出てきました。アプト式はスピードが遅いため新しい方法で坂を登る方法が求められ、昭和38年に廃止されて電気機関車が実装。もちろん電力がたくさん必要になるため、火力発電所や変電所も建設。いろいろな仕組みが動き出し、どんどん動きは活発になっていきました。
しかし前述のとおり、新幹線の開通に伴い横川-軽井沢間はあっさりと廃線に。当時のことについて、電気機関士として運転の経験をもち、現在横川駅近くの「碓氷峠鉄道文化むら」で案内人をされている佐藤昇さんは以下のように語ります。
「機関車の寿命は30年程度なんですが、当時ですでに34年経過していました。新しいものを開発するには莫大な予算が必要だし、新幹線を通したいという本音もある。また生活圏についても、群馬エリアの人は高崎方面を、長野エリアの人は長野の市街地方面を見ていました。横川-軽井沢間が廃止されることについて、バスや新幹線が通るというなら困らないという人が多かったんです。」
しかし、佐藤さんのように現地で働く方は現在の仕事を手放すことになるし、愛着を持っていた利用客も大勢いました。いざ廃線になることが決定したときは、1日中ニュース番組に取り上げられていたそう。
↓当時の映像
最終日の運行に乗りたい人、列車をカメラにおさめたい人で駅はごった返し、超満員状態になっていますね。この頃は周囲の経済も活発だったので、現在では考えられないような規模の人々の流れがあったわけですね。峠の釜めしで有名な「おぎのや」などの飲食業をはじめ、列車の整備など鉄道関係の仕事、周辺の宿泊施設、すべてが活発でした。
碓氷峠鉄道文化むら、横川駅でいま体験できること
そんな信越本線の歴史を未来に残そうとしている施設が、「碓氷峠鉄道文化むら」です。貴重な資料が保管されている資料館や実際に使われた列車の展示、ミニSLやトロッコ列車等、歴史を感じながら楽しめるスポットも多数あるので、実はけっこうしっかり遊べます。
広い空間にズラッと並べられた列車たちはやはり壮観。運転室にも入れます。その大きさや力強さをここまで近く感じられる場所は珍しいのではないかと思います。
パーク内を走るミニSLは、なんと本当に蒸気機関で走るもの。令和の時代、電気でもガソリン等の油でもない動力で動く乗り物に、こんなにも気軽に乗れてしまうなんて……。
もちろん食事ができる場所もあります。こちらの「越後屋食堂」は横川の地元民・観光客を支えてきた古き良き食堂で、もつ煮や肉トーフが美味しい最高のお店。2019年3月に店舗が全焼したものの、ファン達の助けがあって鉄道文化むら内で再開したという、これまた熱いお話があるんですけど……語りきれないので別の機会に記事にします。
また、アプト式で活躍したラックレールをモチーフにしたサブレもお土産として販売中。まさかここをお菓子にするとは!
ぜひ、信越本線の歴史とともにお持ち帰りください。
鉄道文化むらに隣接する横川駅と高崎駅の間には、蒸気機関車が牽引する臨時快速列車も走っています(詳細はこちら)。横川駅駅長のお迎えを受け、横川駅構内では峠の釜めしで有名な「おぎのや」のルーツであるお蕎麦も楽しむことができます。
そして横川駅では年明けから周年イベントも開始予定で、記念ヘッドマークをつけたSL運行、横川・碓氷峠エリアのお土産アイテムの製作などが計画されています。そのデザインで顔ハメパネルも設置されており、私たちの旅を彩ってくれます。
電車のイラスト=精巧でカッコいい!というイメージのものが多い中、なんだか親近感のあるゆるいタッチなので鉄道ファンでなくてもつい写真を撮りたくなってしまいますね。
デザインしたのはAnoraksの古川太一さん。「横川のまちに汽笛は鳴り止まない」のフレーズのもと、この地に残り続ける物語が落とし込まれているイラストです。
そしてさらには、すぐ近くにある観光案内所をスタート地点とし、廃線となった信越本線を自らの足で歩くことができる「廃線ウォーク」というレクも実施されています。これが本当に疲れるんですけど本当に情報量の多い体験なので是非、是非参加してほしい……。
おわりに
正直、鉄道に関する歴史は、鉄道ファンでない人間からすると遠く感じられる存在かもしれません。鬼滅の刃のストーリーと比べると少し難しく、わかりづらいかもしれません。
しかしそこには人の仕事が、生活が、人生が、まるで漫画のように複雑にかかわりあっていました。しかもこれは、横川のまちに確かに存在していたノンフィクション。ぜひ、このドラマを体験しながら学んでみてはいかがでしょうか。