ここは安中市・米山公園。九十九川(つくもがわ)沿いに東西に伸びた横長の公園で、近隣住民が憩いの場として利用する静かな場所です。磯部温泉からは車で15分ほど。
和風の庭園と洋風の庭園の組み合わせで構成されており、何の変哲もない「まあまあ広い公園」に見えるのですが……
東側には「安中市サーキット場」という名前のフラットなエリアがあり、週末にはスケートボード・ローラースケートを楽しむ若者が多数あつまります。
さらに、これだけではなく……
サーキット場の奥、公園の最東端。この場所に、他の空間から独立した雰囲気のある巨大な設備が。
その形からおおよそ「スケートボードを遊ぶところ」であることは理解できるのですが、高さは3mを超えており、ストリートなグラフィックが異彩を放っています。なんだこれ………?
話を聞いてみる
一体これが何なのかを確かめるべく、サーキット場で遊んでいる男性に聞いてみることにしました。
──こんにちは!こちらのサーキット場はよく利用されるんですか?
「普段は伊勢崎市で滑ってるんですけど、ここもたまに来ますよ。無料で滑れるのは嬉しいですね〜」
──そうなんですね!ところで、あの奥の方にあるコンクリートの設備なんですけど…
「ああ、デスボウルですか。」
──デスボウル…?
「はい。なんでかは知らないけど、みんなそう呼んでます。危険だからじゃないですかね(笑)」
──物騒ですね…ちょっと滑ってもらうことって出来ますか?
「いや…無理ですね。今日はデスボウルを滑れる人はいないんじゃないかな。あれホントに危ないんで」
確かに、サーキット場エリアでは10人くらいの若者が楽しそうに遊んでいますが、「デスボウル」には誰もいません。
その後数人に話を聞いてみるも、全員に「いや、やめときます(笑)」と言われてしまいました。
元プロスケーターに滑ってもらう
それでも、どうしてもデスボウルを滑っているところを見たい…!ということで、安中市在住の元全日本スケートボード協会公認プロスケーター、迎敦(むかえ・あつし)さんをお呼びしました。
30年以上のスケートボード経験がある迎さんは、デスボウル+サーキット場を管理している「安中スケートボード協会」の副会長でもあります。
──急にお呼びしてすみません。このデスボウルを滑っていただきたいのですが、お願いできますか…?
「大丈夫ですよ。でも昔みたいに上まで行くのは難しいなあ。怪我したら仕事できなくなっちゃうし…」※現在迎さんは会社員
──どんな形でも大丈夫です!お願いします!!
「わかりました。」
──おおお……!!かっこいい!!そして「今は難しい」ということは、過去は上まで滑れていたということですか…?
「うん、15歳ごろかな。全日本チャンピオンに認められ、刺激を受けたのがきっかけです。教わりつつ滑ってましたね。通ってたスケートショップのオーナーから『パークができたから行ってみろ』って言われて(笑)。そのときは安中市在住じゃなかったから、電車に乗ってはるばる滑りに来たんですよ。」
──初めて実物を見たときの感想が知りたいです。
「なんだこれ!?こんなデカイのか!!ってびっくりしましたよ(笑)。普段はテレビで見ていただけのサイズですからね。こんなことできるチャンスはなかなか無いなと思って、1日中滑り倒したな〜。」
──スケートボードって当時から流行していたのでしょうか。
「全然そんなことないです。一部の若者は遊んでましたけど、現在ほどの人口はいなかったはず。だから当時『最先端すぎる』と噂になったんですよ、このデスボウルは…。」
スケーターの目線から見る、デスボウルの世界的なヤバさ
──ここがデスボウルと呼ばれるようになった原因は、どんなところにあると思いますか?
「まず高さ3m超えというサイズですよね。このクラスの大きさでは日本一古い…つまり時代を先取りしすぎていたわけです。現在ではこれくらいの高さの場所は普通にありますけど、当時からすると圧倒的なサイズでした。」
──普通に足がすくむサイズですよね……。他には何かありますか。
「バーチカル(上の垂直部分)が少し反っていることですね。これは通常ありえない。」
──えっ?これ反ってるんですね…怖…………
「オーバーハング(角度がきついこと)していると難易度が増すんですが、よりによってこのデスボウルで転倒すると超危険なんですよ」
──高さがありますもんね。
「いえ、高さというよりも材質です。ふつうは転んでもなるべく軽症で済むように、コンパネや合成素材のパネル、またはコンクリートの上にもコーティングされています。
でも、ここは全面ザラザラなコンクリート、しかも継ぎ目がボコボコ。面はヤスリ状になっている……。」
──確かに!こ、こんなところで転倒したら………
「悲惨なことになりますね」
──ギャー!!想像したくない!!!
「ちなみにこの米山公園ですが、実は世界のトップスケーター達が年1回くらいの頻度で遊びに来るんですよ」
──えっ!?世界のトップが何をしに!?
「そりゃデスボウルですよ!サイズが大きいし表面もボコボコだから、スリルが味わえるんじゃないですかね。ここは『世界のトップが楽しく遊べちゃう場所』なんです。」
──そう聞くと、難易度が一気に理解できた気がします。
「彼らはイベントかツアーでわざわざここまで来て、プレイの映像を撮っていくんです。偶然鉢合わせたことがあるんですが、本当にすごかったですよ。圧巻です。」
──最後に、これからデスボウルにチャレンジする人に向けて注意点などあれば。
「ある程度の経験がある人でさえ、最初はプロテクターをつけて様子見をすることが多いです。ヘルメットやプロテクターなしにドロップイン(※フチの上から滑り降りること)するのは完全に自殺行為なので、避けたほうが良いと思います。まずは小さく滑ることから初めてみてください。」
今後も引き続き、デスボウルに関する取材記事を掲載いたします。次回はデスボウルを設計した生みの親、安中市の元職員の方へのインタビュー。お楽しみに!
デスボウルがある場所:米山公園
所在地:群馬県安中市安中 九十九川にかかる「安津間橋」付近
サーキット場の利用は無料、つねに開放されています。利用可能時間は20時まで。