夏を彩る、大きな打ち上げ花火。
ここ磯部温泉でも、毎年8月14日〜8月16日に祭りが開催され、大迫力の花火を楽しむことができます。
今年も8月15日には打ち上げ花火、16日には仕掛け花火が披露される予定で、温泉に訪れた方や地域の方々を魅了することでしょう。”仕掛け花火”とは、いわゆる「ナイアガラの滝」などの地上花火のこと。磯部温泉まつりでは2日に分けて披露されています。
磯部温泉まつりは今回で69回目の開催。かなり歴史が長いお祭りで、実は「群馬県で最古の花火大会」と言われているのです。
そして、そこで打ち上がる綺麗な花火を製作しているのは、菊屋小幡花火店。
県内の様々な祭りに花火を提供して群馬の祭り文化を牽引してきた同店ですが、磯部温泉の花火大会においては初回の開催からずっと製作してくださっています。
現在、菊屋小幡花火店の代表をつとめるのは、5代目である小幡知明さん。
今年もお祭りが近づいてきたということで、磯部温泉の花火大会の特徴、打ち上げ花火の裏側などについて伺ってまいりました。
磯部花火の良さは「音」にあり
菊屋小幡花火店・5代目代表 小幡知明さん
平成21年、31歳の時に先代を継いで代表に就任。日本煙火協会理事。高い芸術力で、平成30年の大曲全国花火競技大会において内閣総理大臣賞を受賞。
──県内最古の歴史をもつ磯部温泉の花火大会の良さは、どんなところにあるのでしょうか?
「なんといってもロケーションですね。安全性への配慮等で大きな玉を打ち上げるのは難しくなってしまいましたが、打ち上げ場所の反対側が崖になっている関係で、音の反響がすごく良いんです。」
──音!たしかに、碓氷川を挟んだ向こう側は斜面になっていますね。
「花火大会って『何万発打ち上げ!』といった打上数がピックアップされがちですが、花火の良さってそれだけじゃないと思うんです。音もそうですし、見る場所や規模感も関わってきます。
磯部の場合は打ち上げ場所からお客さんまで距離があるので、少し落ち着いて花火を見られるんです。恐怖感はなく、音は反響で申し分ない。これは真似しようと思っても出来ないことですね。」
──いろいろな要素が混ざり合って花火を演出しているわけですね。見る方の年齢によっても、好みが違いそうです。
「たとえばカップルで行った花火大会で、花火なんか見てないでしょ(笑)。」
──うっ……言われてみれば……。
「もちろん、悪いことじゃないんですよ。カップルにとっては『誰と行くか』が重要なものですから。
でも夫婦になって、子どもができて、家族で花火を見るとなったときに、見え方が変わります。昔から同じ花火が上がってるはずなんだけど、冷静に見てみたら『こんな綺麗だったんだ』って。」
──初めて見たような気持ちになるわけですね。
「そうです。磯部温泉の花火大会は、たしかに街の大きなお祭りと比べると規模は小さいかもしれませんが、だからこそ磯部でしか味わえない魅力があります。
69回も続いているのは、その証拠だと思いますよ。ちなみに、全国的に見ると規模は決して小さくありませんよ!」
湧き上がる温泉を花火で表現
──先ほどは大会について伺いましたが、花火そのものについてはどんな特徴があるのでしょうか?
「磯部温泉は、言わずと知れた温泉マーク発祥の地ですよね。そこで、花火で温泉感を出せないかと試行錯誤しているんです。」
──温泉感!
「具体的には、温泉が湧き出しているようなイメージを花火で表現したり、温泉マーク(♨)を打ち上げたりしています。温泉の恵みがあってこそ磯部が活気づいてきた、という歴史がありますからね。」
──大きさとしては、どんなものを打ち上げているのでしょう。
「直径15cmほどの5号玉というものです。二重に開花時には直径170mにもなります。」
──この小さなボールが…170m…?そんなに大きく開くんですね…!
「磯部では打ち上げていないのですが、2尺玉というものも作っていて。これは400mくらいになります(笑)」
──信じられないですね……。
「そうでしょう。そんなふうに、普通では考えられないようなことを起こすのが、花火屋の面白いところなんですよ。」
花火は丸さが大事!「菊屋」の屋号に込められた想い
──ところで、屋号になっている「菊屋」とはどんな意味なのでしょうか。
「菊というのは、丸い花火の総称です。人間の本能として真ん丸だと綺麗だなと感じるようで、開花時の丸さは花火の美しさを決定づけます。
うちは明治5年の創業以来『丸さ』に評価をいただいていまして。これからも丸さにこだわって作り続けたい、という気持ちから、平成5年に屋号に入れることにしました。」
──たしかに、丸くて大きな花火を見ると感動します。
「丸く出すのも、実は難しいんですけどね……。」
──そうなんですか!? てっきり、打ち上げ前も丸いから勝手に丸く出るものだと思っていましたが…。
「イメージしづらいかもしれませんが、丸い花火は平面ではなく球体で上がっているんですよね。手前の光だけでなく奥の光も見えるわけですから、どこから見ても丸く作るのは至難の業で。
キャラクターなどの花火は平面で、多少崩れてもキャラクターとして認識できますが、球体である丸は少しでも歪むと綺麗に見えないんです。」
磯部の花火は、「手で着火」していた最後の花火大会
──そういえば、打ち上げ花火の着火はコンピューター制御で行っているそうですね。ハイテク…!
「現在は全ての着火をコンピューター制御で行っていますね。場所によっては音楽とシンクロで打ち上げることもあります。安全性への考慮が大きな理由で、やむを得ず…といった感じですが。
ちなみに磯部温泉の花火大会では、あえて最後まで『手で着火』にこだわっていました。打ち上げ場所の広さなどが最も適していたんです。」
──そういう意味では、最後の花火大会でもあったんですね。
「でも…アナログの着火は、上げてるほうは面白いんですよ。10年くらい前に若い人に着火させてみたら、興奮しすぎて鼻血を出しちゃって(笑)」
──えっ!?
「お前、なんか怪我したのか!?って聞いたら、『イヤ、興奮しすぎて…』って(笑)。 でも、その上げ方をした夜は、本当に興奮して寝付けないんです。だからみんなで打ち上げ後に酒を飲んで、落ち着いてから寝るという文化がありましたね。」
──その打ち上げ方を、磯部だけ残していたんですね。なくなってしまったのは寂しいです…。
「しかし人力で着火すると、どうしてもズレが出てしまいます。コンピューター制御ではそれを是正できるという利点もあるので、悪いわけではないんですよ。 お客さんにとっては『見えている花火』しか関係ないわけですから、心地よいタイミングで上げられることが一番ですね。」
あと30回しか、夏を経験できない──花火大会は本番であり、練習である
──花火づくりの年間スケジュールは、どういった流れになっているのでしょう。
「打ち上げの現場がない時期は、つねに製造と研究です。『星』と呼ばれる火薬を作ったり、綺麗な色を出すための配合比を見直したり。夏を迎える前には一定の量を確保しなければならないため、なかなか研究する時間が取れないのも事実ですが…。」
──夏以外は作り続けて、夏は打ち上げ続けて。終わりのないマラソンのようです。
「私たちの仕事は、信頼が全てですからね。『来年もよろしく』と言われなくても、当然のように翌年夏のぶんを作り始めるんです。」
──それでも、毎年研究を重ねているのですね。
「そうですね。いま私は41歳なんですが、元気でやっていられるのは残り30年くらいです。つまり、あと30回しか夏を経験できない。だから、やりたいこと(研究)と、やらなくちゃいけないこと(製造)を並行してやっています。いろいろテストしながら、どうしたらもっと綺麗に見えるのかと見直すという。そうやって技術が上がってきているのも事実ですから、多少の失敗は大目に見てほしい、なんてことも思ってしまいます(笑)」
磯部の空を彩る花火大会を、ずっと支えてきた菊屋小幡花火店。その5代目代表は、誰よりも花火を愛し、人々のもとに喜びを届ける職人でした。
こんなストーリーを知っていると、花火の見え方も変わるのではないでしょうか?
今年の夏は、ぜひ磯部温泉で菊屋小幡花火店自慢の打ち上げ花火をご覧になってくださいね。
磯部温泉まつり詳細
8月14日 | 鮎のつかみ取り(参加対象:中学生以下) | 15:00〜 | 碓氷川河川敷 (磯部簗前) |
磯部温泉寄席 (林家染二・林家つる子:前売2,000円) | 18:30〜 | 磯部温泉会館 | |
8月15日 | 子どもみこし | 10:30〜15:00 | 磯部町内 |
花火大会 | 20:00〜21:00 | 碓氷川河川敷 | |
8月16日 | 温泉薬師灯籠流し | 19:00〜 | 碓氷川河川敷 |
仕掛け花火大会 | 20:00〜 | 碓氷川河川敷 |
※安中市公式ページより引用